万葉集 第5巻 815番歌/作者・原文・時代・歌・訳

第5巻815番歌はこちらにまとめました。

スポンサーリンク

第5巻 815番歌

第5巻
歌番号815番歌
作者紀男人
題詞梅花歌卅二首[并序] / 天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴會也 于時初春令月 氣淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香 加以 曙嶺移雲 松掛羅而傾盖 夕岫結霧鳥封穀而迷林 庭舞新蝶 空歸故鴈 於是盖天坐地 <促>膝飛觴 忘言一室之裏 開衿煙霞之外 淡然自放 快然自足 若非翰苑何以攄情 詩紀落梅之篇古今夫何異矣 宜賦園梅聊成短詠
原文武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曽 烏梅乎乎<岐>都々 多努之岐乎倍米[大貳紀卿]
訓読正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ[大貳紀卿]
かなむつきたち はるのきたらば かくしこそ うめををきつつ たのしきをへめ
英語(ローマ字)MUTSUKITACHI HARUNOKITARABA KAKUSHIKOSO UMEWOWOKITSUTSU TANOSHIKIWOHEME
正月になり、春がやってきた。こうして梅花を愛でつつ楽しいひとときの限りを尽くそうぞ。
左注
校異歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 役 促 [矢][京] / 詩 [細](塙) 請 / 利 岐 [紀][細]
用語梅花宴、作者:紀男人、琴歌譜、太宰府、福岡、天平2年1月13日、年紀、地名、植物、宴席
スポンサーリンク

解説

題詞は「梅花の歌32首と序文」という意味。

序文は以下の通り。
「天平2年(730年)1月13日、太宰府師(長官)ら一同は、大伴旅人宅に集って宴会を催した。『初春を迎えて、空気は澄み風はやわらかにそよぐ佳き日である。梅花はほころび蝶も舞い始め、山には雲がかかっている。この庭に集まって一同大いに初春を満喫し、梅花を愛でて歌作を楽しもうではないか。』」

序文の原文の「初春令月 氣淑風和」は、2019年からの日本の元号「令和」が生まれた文節になる。

太宰府は京から離れた辺境地であったが、海外(中国や朝鮮)との外交、及び防衛と、それなりの実力がある役人でなければ務まらない場所だった。そのため、有力な官吏が配属され、「遠の朝廷」と呼ばれるように京の都のような街が作られていたという記録もある。梅花の宴を開いた時の大伴旅人は66歳で、太宰府に赴任して2年後のことである。大伴家はもともと天皇の身近にいた氏族であり、旅人は順調に出世を重ね、この頃には大納言の出世も期待されていた。

本歌の解説。
「正月立ち」は「正月になり」ということ。「梅を招きつつ」は「梅花を愛でつつ」という意味。

32首の巻頭を飾るのが本歌で、歌の後に「大貳紀卿(だいにのきのまへつきみ)」とある。「大貳」は太宰府次官のこと、「卿」は公卿のことで、朝廷に仕える高官・侍臣の総称。「紀」は紀男人のこと。つまり「大宰府次官 紀男人 殿」というような意味であり、大伴旅人の補佐役を務めていたと思われる。

梅花の歌32首で最初に紀男人の歌があるのは、おそらく梅花の宴席で紀男人が司会を務め、

「僭越ながら、私めの歌の後に続けて皆様もお願いします。」

というような流れだったのだろう。