万葉集 第17巻 3962番歌/作者・原文・時代・歌・訳

第17巻3962番歌はこちらにまとめました。

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第17巻 3962番歌

第17巻
歌番号3962番歌
作者大伴家持
題詞忽沈<枉>疾殆臨泉路 仍作歌詞以申悲緒一首[并短歌]
原文大王能 麻氣能麻尓々々 大夫之 情布里於許之 安思比奇能 山坂古延弖 安麻射加流 比奈尓久太理伎 伊伎太尓毛 伊麻太夜須米受 年月毛 伊久良母阿良奴尓 宇<都>世美能 代人奈礼婆 宇知奈妣吉 等許尓許伊布之 伊多家苦之 日異益 多良知祢乃 <波>々能美許等乃 大船乃 由久良々々々尓 思多呉非尓 伊都可聞許武等 麻多須良牟 情左夫之苦 波之吉与志 都麻能美許登母 安氣久礼婆 門尓餘里多知 己呂母泥乎 遠理加敝之都追 由布佐礼婆 登許宇知波良比 奴婆多麻能 黒髪之吉C 伊都之加登 奈氣可須良牟曽 伊母毛勢母 和可伎兒等毛<波> 乎知許知尓 佐和吉奈久良牟 多麻保己能 美知乎多騰保弥 間使毛 夜流余之母奈之 於母保之伎 許登都C夜良受 孤布流尓思 情波母要奴 多麻伎波流 伊乃知乎之家騰 世牟須辨能 多騰伎乎之良尓 加苦思C也 安良志乎須良尓 奈氣枳布勢良武
訓読大君の 任けのまにまに 大夫の 心振り起し あしひきの 山坂越えて 天離る 鄙に下り来 息だにも いまだ休めず 年月も いくらもあらぬに うつせみの 世の人なれば うち靡き 床に臥い伏し 痛けくし 日に異に増さる たらちねの 母の命の 大船の ゆくらゆくらに 下恋に いつかも来むと 待たすらむ 心寂しく はしきよし 妻の命も 明けくれば 門に寄り立ち 衣手を 折り返しつつ 夕されば 床打ち払ひ ぬばたまの 黒髪敷きて いつしかと 嘆かすらむぞ 妹も兄も 若き子どもは をちこちに 騒き泣くらむ 玉桙の 道をた遠み 間使も 遺るよしもなし 思ほしき 言伝て遣らず 恋ふるにし 心は燃えぬ たまきはる 命惜しけど 為むすべの たどきを知らに かくしてや 荒し男すらに 嘆き伏せらむ
かなおほきみの まけのまにまに ますらをの こころふりおこし あしひきの やまさかこえて あまざかる ひなにくだりき いきだにも いまだやすめず としつきも いくらもあらぬに うつせみの よのひとなれば うちなびき とこにこいふし いたけくし ひにけにまさる たらちねの ははのみことの おほぶねの ゆくらゆくらに したごひに いつかもこむと またすらむ こころさぶしく はしきよし つまのみことも あけくれば かどによりたち ころもでを をりかへしつつ ゆふされば とこうちはらひ ぬばたまの くろかみしきて いつしかと なげかすらむぞ いももせも わかきこどもは をちこちに さわきなくらむ たまほこの みちをたどほみ まつかひも やるよしもなし おもほしき ことつてやらず こふるにし こころはもえぬ たまきはる いのちをしけど せむすべの たどきをしらに かくしてや あらしをすらに なげきふせらむ
英語(ローマ字)OHOKIMINO MAKENOMANIMANI MASURAWONO KOKOROFURIOKOSHI ASHIHIKINO YAMASAKAKOETE AMAZAKARU HINANIKUDARIKI IKIDANIMO IMADAYASUMEZU TOSHITSUKIMO IKURAMOARANUNI UTSUSEMINO YONOHITONAREBA UCHINABIKI TOKONIKOIFUSHI ITAKEKUSHI HINIKENIMASARU TARACHINENO HAHANOMIKOTONO OHOBUNENO YUKURAYUKURANI SHITAGOHINI ITSUKAMOKOMUTO MATASURAMU KOKOROSABUSHIKU HASHIKIYOSHI TSUMANOMIKOTOMO AKEKUREBA KADONIYORITACHI KOROMODEWO WORIKAHESHITSUTSU YUFUSAREBA TOKOUCHIHARAHI NUBATAMANO KUROKAMISHIKITE ITSUSHIKATO NAGEKASURAMUZO IMOMOSEMO WAKAKIKODOMOHA WOCHIKOCHINI SAWAKINAKURAMU TAMAHOKONO MICHIWOTADOHOMI MATSUKAHIMO YARUYOSHIMONASHI OMOHOSHIKI KOTOTSUTEYARAZU KOFURUNISHI KOKOROHAMOENU TAMAKIHARU INOCHIWOSHIKEDO SEMUSUBENO TADOKIWOSHIRANI KAKUSHITEYA ARASHIWOSURANI NAGEKIFUSERAMU
大君のご命令のままに男気を振り起こし、山や坂を越えて遠い遠い田舎に下ってきた。息つく暇もなく、いまだ休めず忙しかった。年月もいくらも経っていないのに、はかない世の生身の人間のこととて、ぐったりと床に伏してしまった。苦痛は日に日に増さる。母上が大船がゆれるようにゆらゆらと恋しい。母上はいつ帰ってくるやらと待っておられることと思うと心寂しい。ああ、あのいとしいわが妻も朝明けには門に寄り立って袖を折り返し、夕方になると床をきれいに払い清め、黒髪を頭の下に敷いて床につき、いつ帰ってくるだろうと嘆いていることだろう。妹もお兄ちゃんも幼い子供たちはあっちこちに動き回って騒いだり泣いたりしているだろう。けれども道が遠いので、妻と私の間を行き来する使いをしばしば送る手だてはない。思い通りの言づてを送る事が出来ず、恋しさが募って心は燃え上がるばかりだ。限りある命、何とかしたいのだが、何の手だてもない。こうして、荒々しき男子たる者が、ただ嘆いて伏していなければならないというのか。
左注(右天平十九年春二月廿日越中國守之舘臥病悲傷聊作此歌)
校異狂 枉 [元] / 歌 [西] 謌 / 津 都 [元][紀][細] / 婆 波 [元][紀][細] / 婆 波 [元][紀][細]
用語天平19年2月20日、年紀、作者:大伴家持、病気、枕詞、悲嘆、高岡、富山
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