第2巻135番歌はこちらにまとめました。
第2巻 135番歌
巻 | 第2巻 |
歌番号 | 135番歌 |
作者 | 柿本人麻呂 |
題詞 | (柿本朝臣人麻呂従石見國別妻上来時歌二首[并短歌]) |
原文 | 角<障>經 石見之海乃 言佐敝久 辛乃埼有 伊久里尓曽 深海松生流 荒礒尓曽 玉藻者生流 玉藻成 靡寐之兒乎 深海松乃 深目手思騰 左宿夜者 幾毛不有 延都多乃 別之来者 肝向 心乎痛 念乍 顧為騰 大舟之 渡乃山之 黄葉乃 散之乱尓 妹袖 清尓毛不見 嬬隠有 屋上乃 [一云 室上山] 山乃 自雲間 渡相月乃 雖惜 隠比来者 天傳 入日刺奴礼 大夫跡 念有吾毛 敷妙乃 衣袖者 通而<沾>奴 |
訓読 | つのさはふ 石見の海の 言さへく 唐の崎なる 海石にぞ 深海松生ふる 荒礒にぞ 玉藻は生ふる 玉藻なす 靡き寝し子を 深海松の 深めて思へど さ寝し夜は 幾だもあらず 延ふ蔦の 別れし来れば 肝向ふ 心を痛み 思ひつつ かへり見すれど 大船の 渡の山の 黄葉の 散りの乱ひに 妹が袖 さやにも見えず 妻ごもる 屋上の [一云 室上山] 山の 雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠らひ来れば 天伝ふ 入日さしぬれ 大夫と 思へる我れも 敷栲の 衣の袖は 通りて濡れぬ |
かな | つのさはふ いはみのうみの ことさへく からのさきなる いくりにぞ ふかみるおふる ありそにぞ たまもはおふる たまもなす なびきねしこを ふかみるの ふかめておもへど さねしよは いくだもあらず はふつたの わかれしくれば きもむかふ こころをいたみ おもひつつ かへりみすれど おほぶねの わたりのやまの もみちばの ちりのまがひに いもがそで さやにもみえず つまごもる やかみの [むろかみやま] やまの くもまより わたらふつきの をしけども かくらひくれば あまづたふ いりひさしぬれ ますらをと おもへるわれも しきたへの ころものそでは とほりてぬれぬ |
英語(ローマ字) | TSUNOSAHAFU IHAMINOUMINO KOTOSAHEKU KARANOSAKINARU IKURINIZO FUKAMIRUOFURU ARISONIZO TAMAMOHAOFURU TAMAMONASU NABIKINESHIKOWO FUKAMIRUNO FUKAMETEOMOHEDO SANESHIYOHA IKUDAMOARAZU HAFUTSUTANO WAKARESHIKUREBA KIMOMUKAFU KOKOROWOITAMI OMOHITSUTSU KAHERIMISUREDO OHOBUNENO WATARINOYAMANO MOMICHIBANO CHIRINOMAGAHINI IMOGASODE SAYANIMOMIEZU TSUMAGOMORU YAKAMINO [MUROKAMIYAMA] YAMANO KUMOMAYORI WATARAFUTSUKINO WOSHIKEDOMO KAKURAHIKUREBA AMADUTAFU IRIHISASHINURE MASURAWOTO OMOHERUWAREMO SHIKITAHENO KOROMONOSODEHA TOHORITENURENU |
訳 | 石見の海の辛崎に沈む海中の岩石には海深くに松が生えている。その荒磯に玉藻が生い茂ってなびくように、共寝した彼女。海深くに生える深海松(みるまつ)のように深く思って寝た夜はいくらもなく、蔦(つた)が二手に分かれていくように別れてきてしまった。その心の痛みに堪えられず振り返ってみるが、渡の山の黄葉が散り乱れ、彼女が振っている袖もはっきりとは見えない。 屋上の山(或いは室上山という)の雲間を渡っていく月が名残惜しい。その月が隠れてくるにつれ、入日が迫ってきて、一人前の男と思っていた私の袖も悲しみで濡れてしまった。 |
左注 | – |
校異 | K 障 [元][金][紀] / 沽 沾 [金][温][京] |
用語 | 相聞、作者:柿本人麻呂、依羅娘子、離別、石見相聞歌、上京、地方官、島根、地名、枕詞、悲別 |