第5巻904番歌はこちらにまとめました。
第5巻 904番歌
巻 | 第5巻 |
歌番号 | 904番歌 |
作者 | 作者不詳 |
題詞 | 戀男子名古日歌三首 [長一首短二首] |
原文 | 世人之 貴慕 七種之 寶毛我波 何為 和我中能 産礼出有 白玉之 吾子古日者 明星之 開朝者 敷多倍乃 登許能邊佐良受 立礼杼毛 居礼杼毛 登母尓戯礼 夕星乃 由布弊尓奈礼<婆> 伊射祢余登 手乎多豆佐波里 父母毛 表者奈佐我利 三枝之 中尓乎祢牟登 愛久 志我可多良倍婆 何時可毛 比等々奈理伊弖天 安志家口毛 与家久母見武登 大船乃 於毛比多能無尓 於毛波奴尓 横風乃 <尓布敷可尓> 覆来礼婆 世武須便乃 多杼伎乎之良尓 志路多倍乃 多須吉乎可氣 麻蘇鏡 弖尓登利毛知弖 天神 阿布藝許比乃美 地祇 布之弖額拜 可加良受毛 可賀利毛 神乃末尓麻尓等 立阿射里 我例乞能米登 須臾毛 余家久波奈之尓 漸々 可多知都久保里 朝々 伊布許等夜美 霊剋 伊乃知多延奴礼 立乎杼利 足須里佐家婢 伏仰 武祢宇知奈氣<吉> 手尓持流 安我古登<婆>之都 世間之道 |
訓読 | 世間の 貴び願ふ 七種の 宝も我れは 何せむに 我が中の 生れ出でたる 白玉の 我が子古日は 明星の 明くる朝は 敷栲の 床の辺去らず 立てれども 居れども ともに戯れ 夕星の 夕になれば いざ寝よと 手を携はり 父母も うへはなさがり さきくさの 中にを寝むと 愛しく しが語らへば いつしかも 人と成り出でて 悪しけくも 吉けくも見むと 大船の 思ひ頼むに 思はぬに 邪しま風の にふふかに 覆ひ来れば 為むすべの たどきを知らに 白栲の たすきを掛け まそ鏡 手に取り持ちて 天つ神 仰ぎ祈ひ祷み 国つ神 伏して額つき かからずも かかりも 神のまにまにと 立ちあざり 我れ祈ひ祷めど しましくも 吉けくはなしに やくやくに かたちつくほり 朝な朝な 言ふことやみ たまきはる 命絶えぬれ 立ち躍り 足すり叫び 伏し仰ぎ 胸打ち嘆き 手に持てる 我が子飛ばしつ 世間の道 |
かな | よのなかの たふとびねがふ ななくさの たからもわれは なにせむに わがなかの うまれいでたる しらたまの あがこふるひは あかぼしの あくるあしたは しきたへの とこのへさらず たてれども をれども ともにたはぶれ ゆふつづの ゆふへになれば いざねよと てをたづさはり ちちははも うへはなさがり さきくさの なかにをねむと うつくしく しがかたらへば いつしかも ひととなりいでて あしけくも よけくもみむと おほぶねの おもひたのむに おもはぬに よこしまかぜの にふふかに おほひきたれば せむすべの たどきをしらに しろたへの たすきをかけ まそかがみ てにとりもちて あまつかみ あふぎこひのみ くにつかみ ふしてぬかつき かからずも かかりも かみのまにまにと たちあざり われこひのめど しましくも よけくはなしに やくやくに かたちつくほり あさなさな いふことやみ たまきはる いのちたえぬれ たちをどり あしすりさけび ふしあふぎ むねうちなげき てにもてる あがことばしつ よのなかのみち |
英語(ローマ字) | YONONAKANO TAFUTOBINEGAFU NANAKUSANO TAKARAMOWAREHA NANISEMUNI WAGANAKANO UMAREIDETARU SHIRATAMANO AGAKOFURUHIHA AKABOSHINO AKURUASHITAHA SHIKITAHENO TOKONOHESARAZU TATEREDOMO WOREDOMO TOMONITAHABURE YUFUTSUDUNO YUFUHENINAREBA IZANEYOTO TEWOTADUSAHARI CHICHIHAHAMO UHEHANASAGARI SAKIKUSANO NAKANIWONEMUTO UTSUKUSHIKU SHIGAKATARAHEBA ITSUSHIKAMO HITOTONARIIDETE ASHIKEKUMO YOKEKUMOMIMUTO OHOBUNENO OMOHITANOMUNI OMOHANUNI YOKOSHIMAKAZENO NIFUFUKANI OHOHIKITAREBA SEMUSUBENO TADOKIWOSHIRANI SHIROTAHENO TASUKIWOKAKE MASOKAGAMI TENITORIMOCHITE AMATSUKAMI AFUGIKOHINOMI KUNITSUKAMI FUSHITENUKATSUKI KAKARAZUMO KAKARIMO KAMINOMANIMANITO TACHIAZARI WAREKOHINOMEDO SHIMASHIKUMO YOKEKUHANASHINI YAKUYAKUNI KATACHITSUKUHORI ASANASANA IFUKOTOYAMI TAMAKIHARU INOCHITAENURE TACHIWODORI ASHISURISAKEBI FUSHIAFUGI MUNEUCHINAGEKI TENIMOTERU AGAKOTOBASHITSU YONONAKANOMICHI |
訳 | 世の中の人が貴重だとして乞い願う、金、銀、瑠璃(るり)、玻璃(はり)等の七宝も、私には何になろう。私たちの間に生まれ出てきた真珠のような我れらが子、古日(ふるひ)こそ宝だ。明けの明星輝く朝方には寝床から離れようとしない。(昼間は)立ったり座ったりして、共に戯れ、夕星が輝き出す夕方になると、さあ寝ようと手を引っ張る。父親や母親からも離れようとせず、三枝の草の真ん中に寝ようとその子が可愛げに言うので、いつか大人になって、悪くも良くも見てみたいと、大船に乗った気持で楽しみにしていた。その折りも折り、にわかに病魔に襲われてしまった。どうしてよいやらなすすべもない。白いタスキを身にかけ、まそ鏡を手に取り持って天の神を仰いで祈り、地の神に伏して額づいて祈った。神様が病気を治して下さるのも、不幸にして病気のままにされるのも、神様がお与えになる運命なのでしょうが、私はおろおろするばかりです。ひたすらお祈りしましたけれど、一時でも良くなることはなく、次第に痩せ細って朝ごとにものも言わなくなり、とうとう息を引き取ってしまいました。私は立ち上がって足踏みするほどショックを受け、天を仰いで胸をたたいて嘆き悲しみました。そのはずみに胸に抱いていた幼子を落としてしまったのです。これが世の中というものでしょうか。 |
左注 | ?(右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉) |
校異 | 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌 / 波 婆 [紀][細] / 尓母布敷可尓布敷可尓 尓布敷可尓 [新訓] / 都久 [代匠記精撰本](塙) 久都 / 古 吉 [温][矢][京] / 波 婆 [紀][細] |
用語 | 山上憶良、仏教、儒教、孝養、子供、嘆き、枕詞 |