第16巻3811番歌はこちらにまとめました。
第16巻 3811番歌
巻 | 第16巻 |
歌番号 | 3811番歌 |
作者 | 車持娘子 |
題詞 | 戀夫君歌一首[并短歌] |
原文 | 左耳通良布 君之三言等 玉梓乃 使毛不来者 憶病 吾身一曽 千<磐>破 神尓毛莫負 卜部座 龜毛莫焼曽 戀之久尓 痛吾身曽 伊知白苦 身尓染<登>保里 村肝乃 心砕而 将死命 尓波可尓成奴 今更 君可吾乎喚 足千根乃 母之御事歟 百不足 八十乃衢尓 夕占尓毛 卜尓毛曽問 應死吾之故 |
訓読 | さ丹つらふ 君がみ言と 玉梓の 使も来ねば 思ひ病む 我が身ひとつぞ ちはやぶる 神にもな負ほせ 占部据ゑ 亀もな焼きそ 恋ひしくに 痛き我が身ぞ いちしろく 身にしみ通り むらきもの 心砕けて 死なむ命 にはかになりぬ 今さらに 君か我を呼ぶ たらちねの 母のみ言か 百足らず 八十の衢に 夕占にも 占にもぞ問ふ 死ぬべき我がゆゑ |
かな | さにつらふ きみがみことと たまづさの つかひもこねば おもひやむ あがみひとつぞ ちはやぶる かみにもなおほせ うらへすゑ かめもなやきそ こひしくに いたきあがみぞ いちしろく みにしみとほり むらきもの こころくだけて しなむいのち にはかになりぬ いまさらに きみかわをよぶ たらちねの ははのみことか ももたらず やそのちまたに ゆふけにも うらにもぞとふ しぬべきわがゆゑ |
英語(ローマ字) | SANITSURAFU KIMIGAMIKOTOTO TAMADUSANO TSUKAHIMOKONEBA OMOHIYAMU AGAMIHITOTSUZO CHIHAYABURU KAMINIMONAOHOSE URAHESUゑ KAMEMONAYAKISO KOHISHIKUNI ITAKIAGAMIZO ICHISHIROKU MINISHIMITOHORI MURAKIMONO KOKOROKUDAKETE SHINAMUINOCHI NIHAKANINARINU IMASARANI KIMIKAWAWOYOBU TARACHINENO HAHANOMIKOTOKA MOMOTARAZU YASONOCHIMATANI YUFUKENIMO URANIMOZOTOFU SHINUBEKIWAGAYUゑ |
訳 | あなたの言葉を伝える使いもやって来ず、思い続けて病む我が身一つです。神のせいにして下さいますな。占い師を招いて亀の甲を焼いて吉凶を占ってくださるな。病の原因は恋しさから来ています。はっきりと身に染みとおり、心もちりじりに砕け、私は死ぬ身です。いまさら私の名を呼ばないで、それとも母さんの呼ぶ声かな。道の四つ辻に立って、どなたかが夕占いをする声なのかな、もう死んでゆく我が身なのに。 |
左注 | (右傳云 時有娘子 姓車持氏也 其夫久逕年序不作徃来 于時娘子係戀傷心 沈臥痾エ 痩羸日異忽臨泉路 於是遣使喚其夫君来 而乃歔欷流な口号斯歌 登時逝歿也) |
校異 | 歌 [西] 謌 / 盤 磐 [尼][類][紀] / <> 登 [代匠記精撰本] |
用語 | 雑歌、枕詞、恋情、女歌、歌物語、伝承、作者:車持娘子 |
解説
題詞は「夫(せ)の君に戀(こ)ひたる歌一首と短歌」という意味。夫は車持千年と思われる。「戀ひたる」は「恋する」という意味。
「さ丹つらふ」、「ちはやぶる」、「百足らず」等は枕詞になる。「玉梓の使」は「たまづさの枝にはさんだ手紙を届ける使い」という意味。「占部(うらべ)据ゑ」は「占い師を招いて」という意味。「いちしろく」は「はっきりと」という意味。「むらきもの」は「もろもろの内蔵」という意味。「八十の衢(ちまた)に」は、道の四つ辻に立って占いをすること。
左注は3813番歌の終わりに書かれているもの。