第19巻4160番歌はこちらにまとめました。
第19巻 4160番歌
巻 | 第19巻 |
歌番号 | 4160番歌 |
作者 | 大伴家持 |
題詞 | 悲世間無常歌一首[并短歌] |
原文 | 天地之 遠始欲 俗中波 常無毛能等 語續 奈我良倍伎多礼 天原 振左氣見婆 照月毛 盈<ち>之家里 安之比奇能 山之木末毛 春去婆 花開尓保比 秋都氣婆 露霜負而 風交 毛美知落家利 宇都勢美母 如是能未奈良之 紅能 伊呂母宇都呂比 奴婆多麻能 黒髪變 朝之咲 暮加波良比 吹風能 見要奴我其登久 逝水能 登麻良奴其等久 常毛奈久 宇都呂布見者 尓波多豆美 流な 等騰米可祢都母 |
訓読 | 天地の 遠き初めよ 世間は 常なきものと 語り継ぎ 流らへ来たれ 天の原 振り放け見れば 照る月も 満ち欠けしけり あしひきの 山の木末も 春されば 花咲きにほひ 秋づけば 露霜負ひて 風交り もみち散りけり うつせみも かくのみならし 紅の 色もうつろひ ぬばたまの 黒髪変り 朝の笑み 夕変らひ 吹く風の 見えぬがごとく 行く水の 止まらぬごとく 常もなく うつろふ見れば にはたづみ 流るる涙 留めかねつも |
かな | あめつちの とほきはじめよ よのなかは つねなきものと かたりつぎ ながらへきたれ あまのはら ふりさけみれば てるつきも みちかけしけり あしひきの やまのこぬれも はるされば はなさきにほひ あきづけば つゆしもおひて かぜまじり もみちちりけり うつせみも かくのみならし くれなゐの いろもうつろひ ぬばたまの くろかみかはり あさのゑみ ゆふへかはらひ ふくかぜの みえぬがごとく ゆくみづの とまらぬごとく つねもなく うつろふみれば にはたづみ ながるるなみた とどめかねつも |
英語(ローマ字) | AMETSUCHINO TOHOKIHAJIMEYO YONONAKAHA TSUNENAKIMONOTO KATARITSUGI NAGARAHEKITARE AMANOHARA FURISAKEMIREBA TERUTSUKIMO MICHIKAKESHIKERI ASHIHIKINO YAMANOKONUREMO HARUSAREBA HANASAKINIHOHI AKIDUKEBA TSUYUSHIMOOHITE KAZEMAJIRI MOMICHICHIRIKERI UTSUSEMIMO KAKUNOMINARASHI KURENAゐNO IROMOUTSUROHI NUBATAMANO KUROKAMIKAHARI ASANOゑMI YUFUHEKAHARAHI FUKUKAZENO MIENUGAGOTOKU YUKUMIDUNO TOMARANUGOTOKU TSUNEMONAKU UTSUROFUMIREBA NIHATADUMI NAGARURUNAMITA TODOMEKANETSUMO |
訳 | 天地の遠い遠い初めより、世の中は無常なものだと人々は語り継ぎ、言い伝えてきた。天を仰いで見ると、照り輝く月も満ちたり欠けたりしている。やまの木々の梢も、春が来れば花が咲き匂い、秋になれば露や霜を帯び、秋風が吹き、もみじが散り敷く。この世の人もこんなふうであろう。鮮やかな紅の色も色あせ、黒々とした髪も白く染まっていく。朝の笑顔も夕方には変わる。吹く風が目に見えないように、流れる水がとどまらないように、変わらないものなどなく、変わっていくのを見ると、溢れ出てくる涙も留めようがない。 |
左注 | – |
校異 | 興 ち [西(左貼紙訂正)][文][紀] |
用語 | 天平勝宝2年3月、年紀、作者:大伴家持、無常、憶良、富山、高岡 |
解説
題詞の「悲世間無常歌一首[并短歌]」は「世の中の無常を悲しむ歌一首及び短歌」という意味。
「あしひきの」、「ぬばたまの」、「にはたづみ」は枕詞。
「露霜負ひて」は「露や霜を浴びて」ということ。「うつせみも」は「この世の人も」という意味。
歌は大伴家持が越中守に赴任してから10年以上経ったころになる。
越中(今の富山県)は雪が多く、苦労が絶えない歌が多い。とくに家持の場合は、着任してからすぐに弟の書持と死別している。また、第17巻 3983番歌の題詞あるように、「4月になっても霍公鳥が鳴く声を聞かず。これを恨みて作る歌」とあるため、越中赴任を快く思っていなかったのだろう。
歌は自然の移り変わりと人の移ろいを対比させて世の無常を表現している。この作風も山上憶良の影響を受けてのことだろうか。