歌番号 | 本歌 |
第11巻2385番歌 | あらたまの五年経れど我が恋の跡なき恋のやまなくあやし |
第11巻2386番歌 | 巌すら行き通るべきますらをも恋といふことは後悔いにけり |
第11巻2387番歌 | 日並べば人知りぬべし今日の日は千年のごともありこせぬかも |
第11巻2388番歌 | 立ちて居てたづきも知らず思へども妹に告げねば間使も来ず |
第11巻2389番歌 | ぬばたまのこの夜な明けそ赤らひく朝行く君を待たば苦しも |
第11巻2390番歌 | 恋するに死するものにあらませば我が身は千たび死にかへらまし |
第11巻2391番歌 | 玉かぎる昨日の夕見しものを今日の朝に恋ふべきものか |
第11巻2392番歌 | なかなかに見ずあらましを相見てゆ恋ほしき心まして思ほゆ |
第11巻2393番歌 | 玉桙の道行かずあらばねもころのかかる恋には逢はざらましを |
第11巻2394番歌 | 朝影に我が身はなりぬ玉かきるほのかに見えて去にし子ゆゑに |
第11巻2395番歌 | 行き行きて逢はぬ妹ゆゑひさかたの天露霜に濡れにけるかも |
第11巻2396番歌 | たまさかに我が見し人をいかならむよしをもちてかまた一目見む |
第11巻2397番歌 | しましくも見ぬば恋ほしき我妹子を日に日に来れば言の繁けく |
第11巻2398番歌 | たまきはる世までと定め頼みたる君によりてし言の繁けく |
第11巻2399番歌 | 赤らひく肌も触れずて寐ぬれども心を異には我が思はなくに |
第11巻2400番歌 | いで何かここだはなはだ利心の失するまで思ふ恋ゆゑにこそ |
第11巻2401番歌 | 恋ひ死なば恋ひも死ねとか我妹子が我家の門を過ぎて行くらむ |
第11巻2402番歌 | 妹があたり遠くも見ればあやしくも我れは恋ふるか逢ふよしなしに |
第11巻2403番歌 | 玉くせの清き川原にみそぎして斎ふ命は妹がためこそ |
第11巻2404番歌 | 思ひ寄り見ては寄りにしものにあれば一日の間も忘れて思へや |
第11巻2405番歌 | 垣ほなす人は言へども高麗錦紐解き開けし君ならなくに |
第11巻2406番歌 | 高麗錦紐解き開けて夕だに知らずある命恋ひつつかあらむ |
第11巻2407番歌 | 百積の船隠り入る八占さし母は問ふともその名は告らじ |
第11巻2408番歌 | 眉根掻き鼻ひ紐解け待つらむかいつかも見むと思へる我れを |
第11巻2409番歌 | 君に恋ひうらぶれ居れば悔しくも我が下紐の結ふ手いたづらに |
第11巻2410番歌 | あらたまの年は果つれど敷栲の袖交へし子を忘れて思へや |
第11巻2411番歌 | 白栲の袖をはつはつ見しからにかかる恋をも我れはするかも |
第11巻2412番歌 | 我妹子に恋ひすべながり夢に見むと我れは思へど寐ねらえなくに |
第11巻2413番歌 | 故もなく我が下紐を解けしめて人にな知らせ直に逢ふまでに |
第11巻2414番歌 | 恋ふること慰めかねて出でて行けば山を川をも知らず来にけり |
第11巻2415番歌 | 娘子らを袖振る山の瑞垣の久しき時ゆ思ひけり我れは |
第11巻2416番歌 | ちはやぶる神の持たせる命をば誰がためにかも長く欲りせむ |
第11巻2417番歌 | 石上布留の神杉神さぶる恋をも我れはさらにするかも |
第11巻2418番歌 | いかならむ名負ふ神に手向けせば我が思ふ妹を夢にだに見む |
第11巻2419番歌 | 天地といふ名の絶えてあらばこそ汝と我れと逢ふことやまめ |
第11巻2420番歌 | 月見れば国は同じぞ山へなり愛し妹はへなりたるかも |
第11巻2421番歌 | 来る道は岩踏む山はなくもがも我が待つ君が馬つまづくに |
第11巻2422番歌 | 岩根踏みへなれる山はあらねども逢はぬ日まねみ恋ひわたるかも |
第11巻2423番歌 | 道の後深津島山しましくも君が目見ねば苦しかりけり |
第11巻2424番歌 | 紐鏡能登香の山も誰がゆゑか君来ませるに紐解かず寝む |
第11巻2425番歌 | 山科の木幡の山を馬はあれど徒歩より我が来し汝を思ひかねて |
第11巻2426番歌 | 遠山に霞たなびきいや遠に妹が目見ねば我れ恋ひにけり |
第11巻2427番歌 | 宇治川の瀬々のしき波しくしくに妹は心に乗りにけるかも |
第11巻2428番歌 | ちはや人宇治の渡りの瀬を早み逢はずこそあれ後も我が妻 |
第11巻2429番歌 | はしきやし逢はぬ子ゆゑにいたづらに宇治川の瀬に裳裾濡らしつ |
第11巻2430番歌 | 宇治川の水泡さかまき行く水の事かへらずぞ思ひ染めてし |
第11巻2431番歌 | 鴨川の後瀬静けく後も逢はむ妹には我れは今ならずとも |
第11巻2432番歌 | 言に出でて言はばゆゆしみ山川のたぎつ心を塞かへたりけり |
第11巻2433番歌 | 水の上に数書くごとき我が命妹に逢はむとうけひつるかも |
第11巻2434番歌 | 荒礒越し外行く波の外心我れは思はじ恋ひて死ぬとも |
第11巻2435番歌 | 近江の海沖つ白波知らずとも妹がりといはば七日越え来む |
第11巻2436番歌 | 大船の香取の海にいかり下ろしいかなる人か物思はずあらむ |
第11巻2437番歌 | 沖つ裳を隠さふ波の五百重波千重しくしくに恋ひわたるかも |
第11巻2438番歌 | 人言はしましぞ我妹綱手引く海ゆまさりて深くしぞ思ふ |
第11巻2439番歌 | 近江の海沖つ島山奥まけて我が思ふ妹が言の繁けく |
第11巻2440番歌 | 近江の海沖漕ぐ舟のいかり下ろし隠りて君が言待つ我れぞ |
第11巻2441番歌 | 隠り沼の下ゆ恋ふればすべをなみ妹が名告りつ忌むべきものを |
第11巻2442番歌 | 大地は取り尽すとも世の中の尽しえぬものは恋にしありけり |
第11巻2443番歌 | 隠りどの沢泉なる岩が根も通してぞ思ふ我が恋ふらくは |
第11巻2444番歌 | 白真弓石辺の山の常磐なる命なれやも恋ひつつ居らむ |
第11巻2445番歌 | 近江の海沈く白玉知らずして恋ひせしよりは今こそまされ |
第11巻2446番歌 | 白玉を巻きてぞ持てる今よりは我が玉にせむ知れる時だに |
第11巻2447番歌 | 白玉を手に巻きしより忘れじと思ひけらくは何か終らむ |
第11巻2448番歌 | 白玉の間開けつつ貫ける緒もくくり寄すれば後もあふものを |
第11巻2449番歌 | 香具山に雲居たなびきおほほしく相見し子らを後恋ひむかも |
第11巻2450番歌 | 雲間よりさ渡る月のおほほしく相見し子らを見むよしもがも |
第11巻2451番歌 | 天雲の寄り合ひ遠み逢はずとも異し手枕我れまかめやも |
第11巻2452番歌 | 雲だにもしるくし立たば慰めて見つつも居らむ直に逢ふまでに |
第11巻2453番歌 | 春柳葛城山に立つ雲の立ちても居ても妹をしぞ思ふ |
第11巻2454番歌 | 春日山雲居隠りて遠けども家は思はず君をしぞ思ふ |
第11巻2455番歌 | 我がゆゑに言はれし妹は高山の嶺の朝霧過ぎにけむかも |
第11巻2456番歌 | ぬばたまの黒髪山の山菅に小雨降りしきしくしく思ほゆ |
第11巻2457番歌 | 大野らに小雨降りしく木の下に時と寄り来ね我が思ふ人 |
第11巻2458番歌 | 朝霜の消なば消ぬべく思ひつついかにこの夜を明かしてむかも |
第11巻2459番歌 | 我が背子が浜行く風のいや早に言を早みかいや逢はずあらむ |
第11巻2460番歌 | 遠き妹が振り放け見つつ偲ふらむこの月の面に雲なたなびき |
第11巻2461番歌 | 山の端を追ふ三日月のはつはつに妹をぞ見つる恋ほしきまでに |
第11巻2462番歌 | 我妹子し我れを思はばまそ鏡照り出づる月の影に見え来ね |
第11巻2463番歌 | 久方の天照る月の隠りなば何になそへて妹を偲はむ |
第11巻2464番歌 | 三日月のさやにも見えず雲隠り見まくぞ欲しきうたてこのころ |
第11巻2465番歌 | 我が背子に我が恋ひ居れば我が宿の草さへ思ひうらぶれにけり |
第11巻2466番歌 | 浅茅原小野に標結ふ空言をいかなりと言ひて君をし待たむ |
第11巻2467番歌 | 道の辺の草深百合の後もと言ふ妹が命を我れ知らめやも |
第11巻2468番歌 | 港葦に交じれる草のしり草の人皆知りぬ我が下思ひは |
第11巻2469番歌 | 山ぢさの白露重みうらぶれて心も深く我が恋やまず |
第11巻2470番歌 | 港にさ根延ふ小菅ぬすまはず君に恋ひつつありかてぬかも |
第11巻2471番歌 | 山背の泉の小菅なみなみに妹が心を我が思はなくに |
第11巻2472番歌 | 見わたしの三室の山の巌菅ねもころ我れは片思ぞする [一云 みもろの山の岩小菅] |
第11巻2473番歌 | 菅の根のねもころ君が結びてし我が紐の緒を解く人もなし |
第11巻2474番歌 | 山菅の乱れ恋のみせしめつつ逢はぬ妹かも年は経につつ |
第11巻2475番歌 | 我が宿の軒にしだ草生ひたれど恋忘れ草見れどいまだ生ひず |
第11巻2476番歌 | 打つ田には稗はしあまたありといへど選えし我れぞ夜をひとり寝る |
第11巻2477番歌 | あしひきの名負ふ山菅押し伏せて君し結ばば逢はずあらめやも |
第11巻2478番歌 | 秋柏潤和川辺の小竹の芽の人には忍び君に堪へなくに |
第11巻2479番歌 | さね葛後も逢はむと夢のみにうけひわたりて年は経につつ |
第11巻2480番歌 | 道の辺のいちしの花のいちしろく人皆知りぬ我が恋妻は [或本歌曰 いちしろく人知りにけり継ぎてし思へば] |
第11巻2481番歌 | 大野らにたどきも知らず標結ひてありかつましじ我が恋ふらくは |
第11巻2482番歌 | 水底に生ふる玉藻のうち靡き心は寄りて恋ふるこのころ |
第11巻2483番歌 | 敷栲の衣手離れて玉藻なす靡きか寝らむ我を待ちかてに |
第11巻2484番歌 | 君来ずは形見にせむと我がふたり植ゑし松の木君を待ち出でむ |