大伴家持が書いた万葉集

大伴家持が書いた万葉集についてまとめました。

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掲載数 全 473 首

第3巻 21 首

歌番号本歌
第3巻403番歌朝に日に見まく欲りするその玉をいかにせばかも手ゆ離れずあらむ
第3巻408番歌なでしこがその花にもが朝な朝な手に取り持ちて恋ひぬ日なけむ
第3巻414番歌あしひきの岩根こごしみ菅の根を引かばかたみと標のみぞ結ふ
第3巻462番歌今よりは秋風寒く吹きなむをいかにかひとり長き夜を寝む
第3巻464番歌秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑしやどのなでしこ咲きにけるかも
第3巻465番歌うつせみの世は常なしと知るものを秋風寒み偲ひつるかも
第3巻466番歌【長歌】我がやどに 花ぞ咲きたる そを見れど 心もゆかず はしきやし…
第3巻467番歌時はしもいつもあらむを心痛くい行く我妹かみどり子を置きて
第3巻468番歌出でて行く道知らませばあらかじめ妹を留めむ関も置かましを
第3巻469番歌妹が見しやどに花咲き時は経ぬ我が泣く涙いまだ干なくに
第3巻470番歌かくのみにありけるものを妹も我れも千年のごとく頼みたりけり
第3巻471番歌家離りいます我妹を留めかね山隠しつれ心どもなし
第3巻472番歌世間し常かくのみとかつ知れど痛き心は忍びかねつも
第3巻473番歌佐保山にたなびく霞見るごとに妹を思ひ出泣かぬ日はなし
第3巻474番歌昔こそ外にも見しか我妹子が奥つ城と思へばはしき佐保山
第3巻475番歌【長歌】かけまくも あやに畏し 言はまくも ゆゆしきかも 我が大君…
第3巻476番歌我が大君天知らさむと思はねばおほにぞ見ける和束杣山
第3巻477番歌あしひきの山さへ光り咲く花の散りぬるごとき我が大君かも
第3巻478番歌【長歌】かけまくも あやに畏し 我が大君 皇子の命の もののふの…
第3巻479番歌はしきかも皇子の命のあり通ひ見しし活道の道は荒れにけり
第3巻480番歌大伴の名に負ふ靫帯びて万代に頼みし心いづくか寄せむ

第4巻 64 首

歌番号本歌
第4巻611番歌今さらに妹に逢はめやと思へかもここだ我が胸いぶせくあるらむ
第4巻612番歌なかなかに黙もあらましを何すとか相見そめけむ遂げざらまくに
第4巻680番歌けだしくも人の中言聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ
第4巻681番歌なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒にして我れ恋ひめやも
第4巻682番歌思ふらむ人にあらなくにねもころに心尽して恋ふる我れかも
第4巻691番歌ももしきの大宮人は多かれど心に乗りて思ほゆる妹
第4巻692番歌うはへなき妹にもあるかもかくばかり人の心を尽さく思へば
第4巻700番歌かくしてやなほや罷らむ近からぬ道の間をなづみ参ゐ来て
第4巻705番歌はねかづら今する妹を夢に見て心のうちに恋ひわたるかも
第4巻714番歌心には思ひわたれどよしをなみ外のみにして嘆きぞ我がする
第4巻715番歌千鳥鳴く佐保の川門の清き瀬を馬うち渡しいつか通はむ
第4巻716番歌夜昼とい別き知らず我が恋ふる心はけだし夢に見えきや
第4巻717番歌つれもなくあるらむ人を片思に我れは思へばわびしくもあるか
第4巻718番歌思はぬに妹が笑ひを夢に見て心のうちに燃えつつぞ居る
第4巻719番歌ますらをと思へる我れをかくばかりみつれにみつれ片思をせむ
第4巻720番歌むらきもの心砕けてかくばかり我が恋ふらくを知らずかあるらむ
第4巻722番歌かくばかり恋ひつつあらずは石木にもならましものを物思はずして
第4巻727番歌忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり
第4巻728番歌人もなき国もあらぬか我妹子とたづさはり行きて副ひて居らむ
第4巻732番歌今しはし名の惜しけくも我れはなし妹によりては千たび立つとも
第4巻733番歌うつせみの世やも二行く何すとか妹に逢はずて我がひとり寝む
第4巻734番歌我が思ひかくてあらずは玉にもがまことも妹が手に巻かれなむ
第4巻736番歌月夜には門に出で立ち夕占問ひ足占をぞせし行かまくを欲り
第4巻739番歌後瀬山後も逢はむと思へこそ死ぬべきものを今日までも生けれ
第4巻740番歌言のみを後も逢はむとねもころに我れを頼めて逢はざらむかも
第4巻741番歌夢の逢ひは苦しかりけりおどろきて掻き探れども手にも触れねば
第4巻742番歌一重のみ妹が結ばむ帯をすら三重結ぶべく我が身はなりぬ
第4巻743番歌我が恋は千引の石を七ばかり首に懸けむも神のまにまに
第4巻744番歌夕さらば屋戸開け設けて我れ待たむ夢に相見に来むといふ人を
第4巻745番歌朝夕に見む時さへや我妹子が見れど見ぬごとなほ恋しけむ
第4巻746番歌生ける世に我はいまだ見ず言絶えてかくおもしろく縫へる袋は
第4巻747番歌我妹子が形見の衣下に着て直に逢ふまでは我れ脱かめやも
第4巻748番歌恋ひ死なむそこも同じぞ何せむに人目人言言痛み我がせむ
第4巻749番歌夢にだに見えばこそあらめかくばかり見えずしあるは恋ひて死ねとか
第4巻750番歌思ひ絶えわびにしものを中々に何か苦しく相見そめけむ
第4巻751番歌相見ては幾日も経ぬをここだくもくるひにくるひ思ほゆるかも
第4巻752番歌かくばかり面影にのみ思ほえばいかにかもせむ人目繁くて
第4巻753番歌相見てはしましも恋はなぎむかと思へどいよよ恋ひまさりけり
第4巻754番歌夜のほどろ我が出でて来れば我妹子が思へりしくし面影に見ゆ
第4巻755番歌夜のほどろ出でつつ来らくたび数多くなれば我が胸断ち焼くごとし
第4巻764番歌百年に老舌出でてよよむとも我れはいとはじ恋ひは増すとも
第4巻765番歌一重山へなれるものを月夜よみ門に出で立ち妹か待つらむ
第4巻767番歌都路を遠みか妹がこのころはうけひて寝れど夢に見え来ぬ
第4巻768番歌今知らす久迩の都に妹に逢はず久しくなりぬ行きて早見な
第4巻769番歌ひさかたの雨の降る日をただ独り山辺に居ればいぶせかりけり
第4巻770番歌人目多み逢はなくのみぞ心さへ妹を忘れて我が思はなくに
第4巻771番歌偽りも似つきてぞするうつしくもまこと我妹子我れに恋ひめや
第4巻772番歌夢にだに見えむと我れはほどけども相し思はねばうべ見えずあらむ
第4巻773番歌言とはぬ木すらあじさゐ諸弟らが練りのむらとにあざむかえけり
第4巻774番歌百千たび恋ふと言ふとも諸弟らが練りのことばは我れは頼まじ
第4巻775番歌鶉鳴く古りにし里ゆ思へども何ぞも妹に逢ふよしもなき
第4巻777番歌我妹子がやどの籬を見に行かばけだし門より帰してむかも
第4巻778番歌うつたへに籬の姿見まく欲り行かむと言へや君を見にこそ
第4巻779番歌板葺の黒木の屋根は山近し明日の日取りて持ちて参ゐ来む
第4巻780番歌黒木取り草も刈りつつ仕へめどいそしきわけとほめむともあらず…
第4巻781番歌ぬばたまの昨夜は帰しつ今夜さへ我れを帰すな道の長手を
第4巻783番歌をととしの先つ年より今年まで恋ふれどなぞも妹に逢ひかたき
第4巻784番歌うつつにはさらにもえ言はず夢にだに妹が手本を卷き寝とし見ば
第4巻785番歌我がやどの草の上白く置く露の身も惜しからず妹に逢はずあれば
第4巻786番歌春の雨はいやしき降るに梅の花いまだ咲かなくいと若みかも
第4巻787番歌夢のごと思ほゆるかもはしきやし君が使の数多く通へば
第4巻788番歌うら若み花咲きかたき梅を植ゑて人の言繁み思ひぞ我がする
第4巻789番歌心ぐく思ほゆるかも春霞たなびく時に言の通へば
第4巻790番歌春風の音にし出なばありさりて今ならずとも君がまにまに

第6巻 9 首

歌番号本歌
第6巻994番歌振り放けて三日月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも
第6巻1029番歌河口の野辺に廬りて夜の経れば妹が手本し思ほゆるかも
第6巻1032番歌大君の行幸のまにま我妹子が手枕まかず月ぞ経にける
第6巻1033番歌御食つ国志摩の海人ならしま熊野の小舟に乗りて沖へ漕ぐ見ゆ
第6巻1035番歌田跡川の瀧を清みかいにしへゆ宮仕へけむ多芸の野の上に
第6巻1036番歌関なくは帰りにだにもうち行きて妹が手枕まきて寝ましを
第6巻1037番歌今造る久迩の都は山川のさやけき見ればうべ知らすらし
第6巻1040番歌ひさかたの雨は降りしけ思ふ子がやどに今夜は明かして行かむ
第6巻1043番歌たまきはる命は知らず松が枝を結ぶ心は長くとぞ思ふ

第8巻 51 首

歌番号本歌
第8巻1441番歌うち霧らひ雪は降りつつしかすがに我家の苑に鴬鳴くも
第8巻1446番歌春の野にあさる雉の妻恋ひにおのがあたりを人に知れつつ
第8巻1448番歌我がやどに蒔きしなでしこいつしかも花に咲きなむなそへつつ見む
第8巻1462番歌我が君に戯奴は恋ふらし賜りたる茅花を食めどいや痩せに痩す
第8巻1463番歌我妹子が形見の合歓木は花のみに咲きてけだしく実にならじかも
第8巻1464番歌春霞たなびく山のへなれれば妹に逢はずて月ぞ経にける
第8巻1477番歌卯の花もいまだ咲かねば霍公鳥佐保の山辺に来鳴き響もす
第8巻1478番歌我が宿の花橘のいつしかも玉に貫くべくその実なりなむ
第8巻1479番歌隠りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば来鳴くひぐらし
第8巻1485番歌夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らば移ろひなむか
第8巻1486番歌我が宿の花橘を霍公鳥来鳴かず地に散らしてむとか
第8巻1487番歌霍公鳥思はずありき木の暗のかくなるまでに何か来鳴かぬ
第8巻1488番歌いづくには鳴きもしにけむ霍公鳥我家の里に今日のみぞ鳴く
第8巻1489番歌我が宿の花橘は散り過ぎて玉に貫くべく実になりにけり
第8巻1490番歌霍公鳥待てど来鳴かず菖蒲草玉に貫く日をいまだ遠みか
第8巻1491番歌卯の花の過ぎば惜しみか霍公鳥雨間も置かずこゆ鳴き渡る
第8巻1494番歌夏山の木末の茂に霍公鳥鳴き響むなる声の遥けさ
第8巻1495番歌あしひきの木の間立ち潜く霍公鳥かく聞きそめて後恋ひむかも
第8巻1496番歌我が宿のなでしこの花盛りなり手折りて一目見せむ子もがも
第8巻1507番歌【長歌】いかといかと ある我が宿に 百枝さし 生ふる橘 玉に貫く 五月を近み…
第8巻1508番歌望ぐたち清き月夜に我妹子に見せむと思ひしやどの橘
第8巻1509番歌妹が見て後も鳴かなむ霍公鳥花橘を地に散らしつ
第8巻1510番歌なでしこは咲きて散りぬと人は言へど我が標めし野の花にあらめやも
第8巻1554番歌大君の御笠の山の黄葉は今日の時雨に散りか過ぎなむ
第8巻1563番歌聞きつやと妹が問はせる雁が音はまことも遠く雲隠るなり
第8巻1565番歌我が宿の一群萩を思ふ子に見せずほとほと散らしつるかも
第8巻1566番歌久方の雨間も置かず雲隠り鳴きぞ行くなる早稲田雁がね
第8巻1567番歌雲隠り鳴くなる雁の行きて居む秋田の穂立繁くし思ほゆ
第8巻1568番歌雨隠り心いぶせみ出で見れば春日の山は色づきにけり
第8巻1569番歌雨晴れて清く照りたるこの月夜またさらにして雲なたなびき
第8巻1572番歌我が宿の尾花が上の白露を消たずて玉に貫くものにもが
第8巻1591番歌黄葉の過ぎまく惜しみ思ふどち遊ぶ今夜は明けずもあらぬか
第8巻1596番歌妹が家の門田を見むとうち出で来し心もしるく照る月夜かも
第8巻1597番歌秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋の露置けり
第8巻1598番歌さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露
第8巻1599番歌さを鹿の胸別けにかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる
第8巻1602番歌山彦の相響むまで妻恋ひに鹿鳴く山辺に独りのみして
第8巻1603番歌このころの朝明に聞けばあしひきの山呼び響めさを鹿鳴くも
第8巻1605番歌高円の野辺の秋萩このころの暁露に咲きにけむかも
第8巻1619番歌玉桙の道は遠けどはしきやし妹を相見に出でてぞ我が来し
第8巻1625番歌我妹子が業と作れる秋の田の早稲穂のかづら見れど飽かぬかも
第8巻1626番歌秋風の寒きこのころ下に着む妹が形見とかつも偲はむ
第8巻1627番歌我が宿の時じき藤のめづらしく今も見てしか妹が笑まひを
第8巻1628番歌我が宿の萩の下葉は秋風もいまだ吹かねばかくぞもみてる
第8巻1629番歌【長歌】ねもころに 物を思へば 言はむすべ 為むすべもなし 妹と我れと…
第8巻1630番歌高円の野辺のかほ花面影に見えつつ妹は忘れかねつも
第8巻1631番歌今造る久迩の都に秋の夜の長きにひとり寝るが苦しさ
第8巻1632番歌あしひきの山辺に居りて秋風の日に異に吹けば妹をしぞ思ふ
第8巻1635番歌佐保川の水を堰き上げて植ゑし田を [尼] 刈れる初飯はひとりなるべし [家持]
第8巻1649番歌今日降りし雪に競ひて我が宿の冬木の梅は花咲きにけり
第8巻1663番歌淡雪の庭に降り敷き寒き夜を手枕まかずひとりかも寝む

第16巻 2 首

歌番号本歌
第16巻3853番歌石麻呂に我れ物申す夏痩せによしといふものぞ鰻捕り食せ [賣世反也]
第16巻3854番歌痩す痩すも生けらばあらむをはたやはた鰻を捕ると川に流るな

第17巻 76 首

歌番号本歌
第17巻3900番歌織女し舟乗りすらしまそ鏡清き月夜に雲立ちわたる
第17巻3911番歌あしひきの山辺に居れば霍公鳥木の間立ち潜き鳴かぬ日はなし
第17巻3912番歌霍公鳥何の心ぞ橘の玉貫く月し来鳴き響むる
第17巻3913番歌霍公鳥楝の枝に行きて居ば花は散らむな玉と見るまで
第17巻3916番歌橘のにほへる香かも霍公鳥鳴く夜の雨にうつろひぬらむ
第17巻3917番歌霍公鳥夜声なつかし網ささば花は過ぐとも離れずか鳴かむ
第17巻3918番歌橘のにほへる園に霍公鳥鳴くと人告ぐ網ささましを
第17巻3919番歌あをによし奈良の都は古りぬれどもと霍公鳥鳴かずあらなくに
第17巻3920番歌鶉鳴く古しと人は思へれど花橘のにほふこの宿
第17巻3921番歌かきつばた衣に摺り付け大夫の着襲ひ猟する月は来にけり
第17巻3926番歌大宮の内にも外にも光るまで降れる白雪見れど飽かぬかも
第17巻3943番歌秋の田の穂向き見がてり我が背子がふさ手折り来るをみなへしかも
第17巻3947番歌今朝の朝明秋風寒し遠つ人雁が来鳴かむ時近みかも
第17巻3948番歌天離る鄙に月経ぬしかれども結ひてし紐を解きも開けなくに
第17巻3950番歌家にして結ひてし紐を解き放けず思ふ心を誰れか知らむも
第17巻3953番歌雁がねは使ひに来むと騒くらむ秋風寒みその川の上に
第17巻3954番歌馬並めていざ打ち行かな渋谿の清き礒廻に寄する波見に
第17巻3957番歌【長歌】天離る 鄙治めにと 大君の 任けのまにまに 出でて来し…
第17巻3958番歌ま幸くと言ひてしものを白雲に立ちたなびくと聞けば悲しも
第17巻3959番歌かからむとかねて知りせば越の海の荒礒の波も見せましものを
第17巻3960番歌庭に降る雪は千重敷くしかのみに思ひて君を我が待たなくに
第17巻3961番歌白波の寄する礒廻を漕ぐ舟の楫取る間なく思ほえし君
第17巻3962番歌【長歌】大君の 任けのまにまに 大夫の 心振り起し あしひきの…
第17巻3963番歌世間は数なきものか春花の散りのまがひに死ぬべき思へば
第17巻3964番歌山川のそきへを遠みはしきよし妹を相見ずかくや嘆かむ
第17巻3965番歌春の花今は盛りににほふらむ折りてかざさむ手力もがも
第17巻3966番歌鴬の鳴き散らすらむ春の花いつしか君と手折りかざさむ
第17巻3969番歌【長歌】大君の 任けのまにまに しなざかる 越を治めに 出でて来し…
第17巻3970番歌あしひきの山桜花一目だに君とし見てば我れ恋ひめやも
第17巻3971番歌山吹の茂み飛び潜く鴬の声を聞くらむ君は羨しも
第17巻3972番歌出で立たむ力をなみと隠り居て君に恋ふるに心どもなし
第17巻3976番歌咲けりとも知らずしあらば黙もあらむこの山吹を見せつつもとな
第17巻3977番歌葦垣の外にも君が寄り立たし恋ひけれこそば夢に見えけれ
第17巻3978番歌【長歌】妹も我れも 心は同じ たぐへれど いやなつかしく…
第17巻3979番歌あらたまの年返るまで相見ねば心もしのに思ほゆるかも
第17巻3980番歌ぬばたまの夢にはもとな相見れど直にあらねば恋ひやまずけり
第17巻3981番歌あしひきの山きへなりて遠けども心し行けば夢に見えけり
第17巻3982番歌春花のうつろふまでに相見ねば月日数みつつ妹待つらむぞ
第17巻3983番歌あしひきの山も近きを霍公鳥月立つまでに何か来鳴かぬ
第17巻3984番歌玉に貫く花橘をともしみしこの我が里に来鳴かずあるらし
第17巻3985番歌【長歌】射水川 い行き廻れる 玉櫛笥 二上山は 春花の 咲ける盛りに…
第17巻3986番歌渋谿の崎の荒礒に寄する波いやしくしくにいにしへ思ほゆ
第17巻3987番歌玉櫛笥二上山に鳴く鳥の声の恋しき時は来にけり
第17巻3988番歌ぬばたまの月に向ひて霍公鳥鳴く音遥けし里遠みかも
第17巻3989番歌奈呉の海の沖つ白波しくしくに思ほえむかも立ち別れなば
第17巻3990番歌我が背子は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜し
第17巻3991番歌【長歌】もののふの 八十伴の男の 思ふどち 心遣らむと 馬並めて…
第17巻3992番歌布勢の海の沖つ白波あり通ひいや年のはに見つつ偲はむ
第17巻3995番歌玉桙の道に出で立ち別れなば見ぬ日さまねみ恋しけむかも [一云 見ぬ日久しみ恋しけむかも]
第17巻3997番歌我れなしとなわび我が背子霍公鳥鳴かむ五月は玉を貫かさね
第17巻3999番歌都辺に立つ日近づく飽くまでに相見て行かな恋ふる日多けむ
第17巻4000番歌【長歌】天離る 鄙に名懸かす 越の中 国内ことごと 山はしも…
第17巻4001番歌立山に降り置ける雪を常夏に見れども飽かず神からならし
第17巻4002番歌片貝の川の瀬清く行く水の絶ゆることなくあり通ひ見む
第17巻4006番歌【長歌】かき数ふ 二上山に 神さびて 立てる栂の木 本も枝も…
第17巻4007番歌我が背子は玉にもがもな霍公鳥声にあへ貫き手に巻きて行かむ
第17巻4011番歌【長歌】大君の 遠の朝廷ぞ み雪降る 越と名に追へる 天離る…
第17巻4012番歌矢形尾の鷹を手に据ゑ三島野に猟らぬ日まねく月ぞ経にける
第17巻4013番歌二上のをてもこのもに網さして我が待つ鷹を夢に告げつも
第17巻4014番歌松反りしひにてあれかもさ山田の翁がその日に求めあはずけむ
第17巻4015番歌心には緩ふことなく須加の山すかなくのみや恋ひわたりなむ
第17巻4017番歌あゆの風 [越俗語東風謂之あゆの風是也] いたく吹くらし奈呉の海人の釣する小船漕ぎ隠る見ゆ
第17巻4018番歌港風寒く吹くらし奈呉の江に妻呼び交し鶴多に鳴く [一云 鶴騒くなり]
第17巻4019番歌天離る鄙ともしるくここだくも繁き恋かもなぐる日もなく
第17巻4020番歌越の海の信濃[濱名也]の浜を行き暮らし長き春日も忘れて思へや
第17巻4021番歌雄神川紅にほふ娘子らし葦付[水松之類]取ると瀬に立たすらし
第17巻4022番歌鵜坂川渡る瀬多みこの我が馬の足掻きの水に衣濡れにけり
第17巻4023番歌婦負川の早き瀬ごとに篝さし八十伴の男は鵜川立ちけり
第17巻4024番歌立山の雪し消らしも延槻の川の渡り瀬鐙漬かすも
第17巻4025番歌志雄路から直越え来れば羽咋の海朝なぎしたり船楫もがも
第17巻4026番歌鳥総立て船木伐るといふ能登の島山今日見れば木立繁しも幾代神びぞ
第17巻4027番歌香島より熊来をさして漕ぐ船の楫取る間なく都し思ほゆ
第17巻4028番歌妹に逢はず久しくなりぬ饒石川清き瀬ごとに水占延へてな
第17巻4029番歌珠洲の海に朝開きして漕ぎ来れば長浜の浦に月照りにけり
第17巻4030番歌鴬は今は鳴かむと片待てば霞たなびき月は経につつ
第17巻4031番歌中臣の太祝詞言言ひ祓へ贖ふ命も誰がために汝れ

第18巻 69 首

歌番号本歌
第18巻4037番歌乎布の崎漕ぎた廻りひねもすに見とも飽くべき浦にあらなくに [一云 君が問はすも]
第18巻4043番歌明日の日の布勢の浦廻の藤波にけだし来鳴かず散らしてむかも [一頭云 霍公鳥]
第18巻4044番歌浜辺より我が打ち行かば海辺より迎へも来ぬか海人の釣舟
第18巻4045番歌沖辺より満ち来る潮のいや増しに我が思ふ君が御船かもかれ
第18巻4048番歌垂姫の浦を漕ぐ舟梶間にも奈良の我家を忘れて思へや
第18巻4051番歌多古の崎木の暗茂に霍公鳥来鳴き響めばはだ恋ひめやも
第18巻4054番歌霍公鳥こよ鳴き渡れ燈火を月夜になそへその影も見む
第18巻4055番歌可敝流廻の道行かむ日は五幡の坂に袖振れ我れをし思はば
第18巻4063番歌常世物この橘のいや照りにわご大君は今も見るごと
第18巻4064番歌大君は常磐にまさむ橘の殿の橘ひた照りにして
第18巻4066番歌卯の花の咲く月立ちぬ霍公鳥来鳴き響めよ含みたりとも
第18巻4068番歌居り明かしも今夜は飲まむ霍公鳥明けむ朝は鳴き渡らむぞ [二日應立夏節 故謂之明旦将喧也]
第18巻4070番歌一本のなでしこ植ゑしその心誰れに見せむと思ひ始めけむ
第18巻4071番歌しなざかる越の君らとかくしこそ柳かづらき楽しく遊ばめ
第18巻4072番歌ぬばたまの夜渡る月を幾夜経と数みつつ妹は我れ待つらむぞ
第18巻4076番歌あしひきの山はなくもが月見れば同じき里を心隔てつ
第18巻4077番歌我が背子が古き垣内の桜花いまだ含めり一目見に来ね
第18巻4078番歌恋ふといふはえも名付けたり言ふすべのたづきもなきは我が身なりけり
第18巻4079番歌三島野に霞たなびきしかすがに昨日も今日も雪は降りつつ
第18巻4082番歌天離る鄙の奴に天人しかく恋すらば生ける験あり
第18巻4083番歌常の恋いまだやまぬに都より馬に恋来ば担ひあへむかも
第18巻4084番歌暁に名告り鳴くなる霍公鳥いやめづらしく思ほゆるかも
第18巻4085番歌焼太刀を砺波の関に明日よりは守部遣り添へ君を留めむ
第18巻4086番歌油火の光りに見ゆる吾がかづらさ百合の花の笑まはしきかも
第18巻4088番歌さ百合花ゆりも逢はむと思へこそ今のまさかもうるはしみすれ
第18巻4089番歌【長歌】高御倉 天の日継と すめろきの 神の命の 聞こしをす…
第18巻4090番歌ゆくへなくありわたるとも霍公鳥鳴きし渡らばかくや偲はむ
第18巻4091番歌卯の花のともにし鳴けば霍公鳥いやめづらしも名告り鳴くなへ
第18巻4092番歌霍公鳥いとねたけくは橘の花散る時に来鳴き響むる
第18巻4093番歌阿尾の浦に寄する白波いや増しに立ちしき寄せ来東風をいたみかも
第18巻4094番歌【長歌】葦原の 瑞穂の国を 天下り 知らしめしける すめろきの…
第18巻4095番歌大夫の心思ほゆ大君の御言の幸を [一云 の] 聞けば貴み [一云 貴くしあれば]
第18巻4096番歌大伴の遠つ神祖の奥城はしるく標立て人の知るべく
第18巻4097番歌天皇の御代栄えむと東なる陸奥山に黄金花咲く
第18巻4098番歌【長歌】高御座 天の日継と 天の下 知らしめしける 天皇の…
第18巻4099番歌いにしへを思ほすらしも我ご大君吉野の宮をあり通ひ見す
第18巻4100番歌もののふの八十氏人も吉野川絶ゆることなく仕へつつ見む
第18巻4101番歌【長歌】珠洲の海人の 沖つ御神に い渡りて 潜き取るといふ 鰒玉…
第18巻4102番歌白玉を包みて遣らばあやめぐさ花橘にあへも貫くがね
第18巻4103番歌沖つ島い行き渡りて潜くちふ鰒玉もが包みて遣らむ
第18巻4104番歌我妹子が心なぐさに遣らむため沖つ島なる白玉もがも
第18巻4105番歌白玉の五百つ集ひを手にむすびおこせむ海人はむがしくもあるか [一云 我家牟伎波母]
第18巻4106番歌【長歌】大汝 少彦名の 神代より 言ひ継ぎけらく 父母を 見れば貴く…
第18巻4107番歌あをによし奈良にある妹が高々に待つらむ心しかにはあらじか
第18巻4108番歌里人の見る目恥づかし左夫流子にさどはす君が宮出後姿
第18巻4109番歌紅はうつろふものぞ橡のなれにし来ぬになほしかめやも
第18巻4110番歌左夫流子が斎きし殿に鈴懸けぬ駅馬下れり里もとどろに
第18巻4111番歌【長歌】かけまくも あやに畏し 天皇の 神の大御代に 田道間守…
第18巻4112番歌橘は花にも実にも見つれどもいや時じくになほし見が欲し
第18巻4113番歌【長歌】大君の 遠の朝廷と 任きたまふ 官のまにま み雪降る…
第18巻4114番歌なでしこが花見るごとに娘子らが笑まひのにほひ思ほゆるかも
第18巻4115番歌さ百合花ゆりも逢はむと下延ふる心しなくは今日も経めやも
第18巻4116番歌【長歌】大君の 任きのまにまに 取り持ちて 仕ふる国の 年の内の…
第18巻4117番歌去年の秋相見しまにま今日見れば面やめづらし都方人
第18巻4118番歌かくしても相見るものを少なくも年月経れば恋ひしけれやも
第18巻4119番歌いにしへよ偲ひにければ霍公鳥鳴く声聞きて恋しきものを
第18巻4120番歌見まく欲り思ひしなへにかづらかけかぐはし君を相見つるかも
第18巻4121番歌朝参の君が姿を見ず久に鄙にし住めば我れ恋ひにけり [一云 はしきよし妹が姿を]
第18巻4122番歌【長歌】天皇の 敷きます国の 天の下 四方の道には 馬の爪 い尽くす極み…
第18巻4123番歌この見ゆる雲ほびこりてとの曇り雨も降らぬか心足らひに
第18巻4124番歌我が欲りし雨は降り来ぬかくしあらば言挙げせずとも年は栄えむ
第18巻4125番歌【長歌】天照らす 神の御代より 安の川 中に隔てて 向ひ立ち 袖振り交し…
第18巻4126番歌天の川橋渡せらばその上ゆもい渡らさむを秋にあらずとも
第18巻4127番歌安の川こ向ひ立ちて年の恋日長き子らが妻どひの夜ぞ
第18巻4134番歌雪の上に照れる月夜に梅の花折りて送らむはしき子もがも
第18巻4135番歌我が背子が琴取るなへに常人の言ふ嘆きしもいやしき増すも
第18巻4136番歌あしひきの山の木末のほよ取りてかざしつらくは千年寿くとぞ
第18巻4137番歌正月立つ春の初めにかくしつつ相し笑みてば時じけめやも
第18巻4138番歌薮波の里に宿借り春雨に隠りつつむと妹に告げつや

第19巻 103 首

歌番号本歌
第19巻4139番歌春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子
第19巻4140番歌吾が園の李の花か庭に散るはだれのいまだ残りたるかも
第19巻4141番歌春まけてもの悲しきにさ夜更けて羽振き鳴く鴫誰が田にか住む
第19巻4142番歌春の日に張れる柳を取り持ちて見れば都の大道し思ほゆ
第19巻4143番歌もののふの八十娘子らが汲み乱ふ寺井の上の堅香子の花
第19巻4144番歌燕来る時になりぬと雁がねは国偲ひつつ雲隠り鳴く
第19巻4145番歌春まけてかく帰るとも秋風にもみたむ山を越え来ざらめや [一云 春されば帰るこの雁]
第19巻4146番歌夜ぐたちに寝覚めて居れば川瀬尋め心もしのに鳴く千鳥かも
第19巻4147番歌夜くたちて鳴く川千鳥うべしこそ昔の人も偲ひ来にけれ
第19巻4148番歌杉の野にさ躍る雉いちしろく音にしも泣かむ隠り妻かも
第19巻4149番歌あしひきの八つ峰の雉鳴き響む朝明の霞見れば悲しも
第19巻4150番歌朝床に聞けば遥けし射水川朝漕ぎしつつ唄ふ舟人
第19巻4151番歌今日のためと思ひて標しあしひきの峰の上の桜かく咲きにけり
第19巻4152番歌奥山の八つ峰の椿つばらかに今日は暮らさね大夫の伴
第19巻4153番歌漢人も筏浮かべて遊ぶといふ今日ぞ我が背子花かづらせな
第19巻4154番歌【長歌】あしひきの 山坂越えて 行きかはる 年の緒長く しなざかる…
第19巻4155番歌矢形尾の真白の鷹を宿に据ゑ掻き撫で見つつ飼はくしよしも
第19巻4156番歌【長歌】あらたまの 年行きかはり 春されば 花のみにほふ あしひきの…
第19巻4157番歌紅の衣にほはし辟田川絶ゆることなく我れかへり見む
第19巻4158番歌年のはに鮎し走らば辟田川鵜八つ潜けて川瀬尋ねむ
第19巻4159番歌礒の上のつままを見れば根を延へて年深からし神さびにけり
第19巻4160番歌【長歌】天地の 遠き初めよ 世間は 常なきものと 語り継ぎ 流らへ来たれ…
第19巻4161番歌言とはぬ木すら春咲き秋づけばもみち散らくは常をなみこそ [一云 常なけむとぞ]
第19巻4162番歌うつせみの常なき見れば世の中に心つけずて思ふ日ぞ多き [一云 嘆く日ぞ多き]
第19巻4163番歌妹が袖我れ枕かむ川の瀬に霧立ちわたれさ夜更けぬとに
第19巻4164番歌【長歌】ちちの実の 父の命 ははそ葉の 母の命 おほろかに 心尽して…
第19巻4165番歌大夫は名をし立つべし後の世に聞き継ぐ人も語り継ぐがね
第19巻4166番歌【長歌】時ごとに いやめづらしく 八千種に 草木花咲き 鳴く鳥の 声も変らふ…
第19巻4167番歌時ごとにいやめづらしく咲く花を折りも折らずも見らくしよしも
第19巻4168番歌毎年に来鳴くものゆゑ霍公鳥聞けば偲はく逢はぬ日を多み [毎年謂之等之乃波]
第19巻4169番歌【長歌】霍公鳥 来鳴く五月に 咲きにほふ 花橘の かぐはしき 親の御言…
第19巻4170番歌白玉の見が欲し君を見ず久に鄙にし居れば生けるともなし
第19巻4171番歌常人も起きつつ聞くぞ霍公鳥この暁に来鳴く初声
第19巻4172番歌霍公鳥来鳴き響めば草取らむ花橘を宿には植ゑずて
第19巻4173番歌妹を見ず越の国辺に年経れば我が心どのなぐる日もなし
第19巻4174番歌春のうちの楽しき終は梅の花手折り招きつつ遊ぶにあるべし
第19巻4175番歌霍公鳥今来鳴きそむあやめぐさかづらくまでに離るる日あらめや [毛能波三箇辞闕之]
第19巻4176番歌我が門ゆ鳴き過ぎ渡る霍公鳥いやなつかしく聞けど飽き足らず [毛能波C尓乎六箇辞闕之]
第19巻4177番歌【長歌】我が背子と 手携はりて 明けくれば 出で立ち向ひ 夕されば…
第19巻4178番歌我れのみし聞けば寂しも霍公鳥丹生の山辺にい行き鳴かにも
第19巻4179番歌霍公鳥夜鳴きをしつつ我が背子を安寐な寝しめゆめ心あれ
第19巻4180番歌【長歌】春過ぎて 夏来向へば あしひきの 山呼び響め さ夜中に 鳴く霍公鳥…
第19巻4181番歌さ夜更けて暁月に影見えて鳴く霍公鳥聞けばなつかし
第19巻4182番歌霍公鳥聞けども飽かず網捕りに捕りてなつけな離れず鳴くがね
第19巻4183番歌霍公鳥飼ひ通せらば今年経て来向ふ夏はまづ鳴きなむを
第19巻4185番歌【長歌】うつせみは 恋を繁みと 春まけて 思ひ繁けば 引き攀ぢて…
第19巻4186番歌山吹を宿に植ゑては見るごとに思ひはやまず恋こそまされ
第19巻4187番歌【長歌】思ふどち ますらをのこの 木の暗の 繁き思ひを 見明らめ…
第19巻4188番歌藤波の花の盛りにかくしこそ浦漕ぎ廻つつ年に偲はめ
第19巻4189番歌【長歌】天離る 鄙としあれば そこここも 同じ心ぞ 家離り 年の経ゆけば…
第19巻4190番歌叔羅川瀬を尋ねつつ我が背子は鵜川立たさね心なぐさに
第19巻4191番歌鵜川立ち取らさむ鮎のしがはたは我れにかき向け思ひし思はば
第19巻4192番歌【長歌】桃の花 紅色に にほひたる 面輪のうちに 青柳の 細き眉根を…
第19巻4193番歌霍公鳥鳴く羽触れにも散りにけり盛り過ぐらし藤波の花 [一云 散りぬべみ袖に扱入れつ藤波の花]
第19巻4194番歌霍公鳥鳴き渡りぬと告ぐれども我れ聞き継がず花は過ぎつつ
第19巻4195番歌我がここだ偲はく知らに霍公鳥いづへの山を鳴きか越ゆらむ
第19巻4196番歌月立ちし日より招きつつうち偲ひ待てど来鳴かぬ霍公鳥かも
第19巻4197番歌妹に似る草と見しより我が標し野辺の山吹誰れか手折りし
第19巻4198番歌つれもなく離れにしものと人は言へど逢はぬ日まねみ思ひぞ我がする
第19巻4199番歌藤波の影なす海の底清み沈く石をも玉とぞ我が見る
第19巻4205番歌皇祖の遠御代御代はい重き折り酒飲みきといふぞこのほほがしは
第19巻4206番歌渋谿をさして我が行くこの浜に月夜飽きてむ馬しまし止め
第19巻4207番歌【長歌】ここにして そがひに見ゆる 我が背子が 垣内の谷に…
第19巻4208番歌我がここだ待てど来鳴かぬ霍公鳥ひとり聞きつつ告げぬ君かも
第19巻4211番歌【長歌】古に ありけるわざの くすばしき 事と言ひ継ぐ 智渟壮士…
第19巻4212番歌娘子らが後の標と黄楊小櫛生ひ変り生ひて靡きけらしも
第19巻4213番歌東風をいたみ奈呉の浦廻に寄する波いや千重しきに恋ひわたるかも
第19巻4214番歌【長歌】天地の 初めの時ゆ うつそみの 八十伴の男は 大君に…
第19巻4215番歌遠音にも君が嘆くと聞きつれば哭のみし泣かゆ相思ふ我れは
第19巻4216番歌世間の常なきことは知るらむを心尽くすな大夫にして
第19巻4217番歌卯の花を腐す長雨の始水に寄る木屑なす寄らむ子もがも
第19巻4218番歌鮪突くと海人の灯せる漁り火の秀にか出ださむ我が下思ひを
第19巻4219番歌我が宿の萩咲きにけり秋風の吹かむを待たばいと遠みかも
第19巻4223番歌あをによし奈良人見むと我が背子が標けむ紅葉地に落ちめやも
第19巻4225番歌あしひきの山の紅葉にしづくあひて散らむ山道を君が越えまく
第19巻4226番歌この雪の消残る時にいざ行かな山橘の実の照るも見む
第19巻4229番歌新しき年の初めはいや年に雪踏み平し常かくにもが
第19巻4230番歌降る雪を腰になづみて参ゐて来し験もあるか年の初めに
第19巻4234番歌鳴く鶏はいやしき鳴けど降る雪の千重に積めこそ我が立ちかてね
第19巻4238番歌君が行きもし久にあらば梅柳誰れとともにか我がかづらかむ
第19巻4239番歌二上の峰の上の茂に隠りにしその霍公鳥待てど来鳴かず
第19巻4248番歌あらたまの年の緒長く相見てしその心引き忘らえめやも
第19巻4249番歌石瀬野に秋萩しのぎ馬並めて初鷹猟だにせずや別れむ
第19巻4250番歌しなざかる越に五年住み住みて立ち別れまく惜しき宵かも
第19巻4251番歌玉桙の道に出で立ち行く我れは君が事跡を負ひてし行かむ
第19巻4253番歌立ちて居て待てど待ちかね出でて来し君にここに逢ひかざしつる萩
第19巻4254番歌【長歌】蜻蛉島 大和の国を 天雲に 磐舟浮べ 艫に舳に 真櫂しじ貫き…
第19巻4255番歌秋の花種にあれど色ごとに見し明らむる今日の貴さ
第19巻4256番歌いにしへに君が三代経て仕へけり我が大主は七代申さね
第19巻4259番歌十月時雨の常か我が背子が宿の黄葉散りぬべく見ゆ
第19巻4266番歌【長歌】あしひきの 八つ峰の上の 栂の木の いや継ぎ継ぎに 松が根の…
第19巻4267番歌天皇の御代万代にかくしこそ見し明きらめめ立つ年の端に
第19巻4272番歌天地に足らはし照りて我が大君敷きませばかも楽しき小里
第19巻4278番歌あしひきの山下ひかげかづらける上にやさらに梅をしのはむ
第19巻4281番歌白雪の降り敷く山を越え行かむ君をぞもとな息の緒に思ふ,息の緒にする
第19巻4285番歌大宮の内にも外にもめづらしく降れる大雪な踏みそね惜し
第19巻4286番歌御園生の竹の林に鴬はしば鳴きにしを雪は降りつつ
第19巻4287番歌鴬の鳴きし垣内ににほへりし梅この雪にうつろふらむか
第19巻4288番歌川洲にも雪は降れれし宮の内に千鳥鳴くらし居む所なみ
第19巻4289番歌青柳の上枝攀ぢ取りかづらくは君が宿にし千年寿くとぞ
第19巻4290番歌春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影に鴬鳴くも
第19巻4291番歌我が宿のい笹群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも
第19巻4292番歌うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば

第20巻 78 首

歌番号本歌
第20巻4297番歌をみなへし秋萩しのぎさを鹿の露別け鳴かむ高圓の野ぞ
第20巻4303番歌我が背子が宿の山吹咲きてあらばやまず通はむいや年の端に
第20巻4304番歌山吹の花の盛りにかくのごと君を見まくは千年にもがも
第20巻4305番歌木の暗の茂き峰の上を霍公鳥鳴きて越ゆなり今し来らしも
第20巻4306番歌初秋風涼しき夕解かむとぞ紐は結びし妹に逢はむため
第20巻4307番歌秋と言へば心ぞ痛きうたて異に花になそへて見まく欲りかも
第20巻4308番歌初尾花花に見むとし天の川へなりにけらし年の緒長く
第20巻4309番歌秋風に靡く川辺のにこ草のにこよかにしも思ほゆるかも
第20巻4310番歌秋されば霧立ちわたる天の川石並置かば継ぎて見むかも
第20巻4311番歌秋風に今か今かと紐解きてうら待ち居るに月かたぶきぬ
第20巻4312番歌秋草に置く白露の飽かずのみ相見るものを月をし待たむ
第20巻4313番歌青波に袖さへ濡れて漕ぐ舟のかし振るほとにさ夜更けなむか
第20巻4314番歌八千種に草木を植ゑて時ごとに咲かむ花をし見つつ偲はな
第20巻4315番歌宮人の袖付け衣秋萩ににほひよろしき高圓の宮
第20巻4316番歌高圓の宮の裾廻の野づかさに今咲けるらむをみなへしはも
第20巻4317番歌秋野には今こそ行かめもののふの男女の花にほひ見に
第20巻4318番歌秋の野に露負へる萩を手折らずてあたら盛りを過ぐしてむとか
第20巻4319番歌高圓の秋野の上の朝霧に妻呼ぶ壮鹿出で立つらむか
第20巻4320番歌大夫の呼び立てしかばさを鹿の胸別け行かむ秋野萩原
第20巻4331番歌【長歌】大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国は 敵守る おさへの城ぞと…
第20巻4332番歌大夫の靫取り負ひて出でて行けば別れを惜しみ嘆きけむ妻
第20巻4333番歌鶏が鳴く東壮士の妻別れ悲しくありけむ年の緒長み
第20巻4334番歌海原を遠く渡りて年経とも子らが結べる紐解くなゆめ
第20巻4335番歌今替る新防人が船出する海原の上に波なさきそね
第20巻4336番歌防人の堀江漕ぎ出る伊豆手船楫取る間なく恋は繁けむ
第20巻4360番歌【長歌】皇祖の 遠き御代にも 押し照る 難波の国に 天の下 知らしめしきと…
第20巻4361番歌桜花今盛りなり難波の海押し照る宮に聞こしめすなへ
第20巻4362番歌海原のゆたけき見つつ葦が散る難波に年は経ぬべく思ほゆ
第20巻4395番歌龍田山見つつ越え来し桜花散りか過ぎなむ我が帰るとに
第20巻4396番歌堀江より朝潮満ちに寄る木屑貝にありせばつとにせましを
第20巻4397番歌見わたせば向つ峰の上の花にほひ照りて立てるは愛しき誰が妻
第20巻4398番歌【長歌】大君の 命畏み 妻別れ 悲しくはあれど 大夫の 心振り起し…
第20巻4399番歌海原に霞たなびき鶴が音の悲しき宵は国辺し思ほゆ
第20巻4400番歌家思ふと寐を寝ず居れば鶴が鳴く葦辺も見えず春の霞に
第20巻4408番歌【長歌】大君の 任けのまにまに 島守に 我が立ち来れば ははそ葉の…
第20巻4409番歌家人の斎へにかあらむ平けく船出はしぬと親に申さね
第20巻4410番歌み空行く雲も使と人は言へど家づと遣らむたづき知らずも
第20巻4411番歌家づとに貝ぞ拾へる浜波はいやしくしくに高く寄すれど
第20巻4412番歌島蔭に我が船泊てて告げ遣らむ使を無みや恋ひつつ行かむ
第20巻4434番歌ひばり上がる春へとさやになりぬれば都も見えず霞たなびく
第20巻4435番歌ふふめりし花の初めに来し我れや散りなむ後に都へ行かむ
第20巻4443番歌ひさかたの雨は降りしくなでしこがいや初花に恋しき我が背
第20巻4445番歌鴬の声は過ぎぬと思へどもしみにし心なほ恋ひにけり
第20巻4450番歌我が背子が宿のなでしこ散らめやもいや初花に咲きは増すとも
第20巻4451番歌うるはしみ我が思ふ君はなでしこが花になそへて見れど飽かぬかも
第20巻4453番歌秋風の吹き扱き敷ける花の庭清き月夜に見れど飽かぬかも
第20巻4457番歌住吉の浜松が根の下延へて我が見る小野の草な刈りそね
第20巻4460番歌堀江漕ぐ伊豆手の舟の楫つくめ音しば立ちぬ水脈早みかも
第20巻4461番歌堀江より水脈さかのぼる楫の音の間なくぞ奈良は恋しかりける
第20巻4462番歌舟競ふ堀江の川の水際に来居つつ鳴くは都鳥かも
第20巻4463番歌霍公鳥まづ鳴く朝明いかにせば我が門過ぎじ語り継ぐまで
第20巻4464番歌霍公鳥懸けつつ君が松蔭に紐解き放くる月近づきぬ
第20巻4465番歌【長歌】久方の 天の門開き 高千穂の 岳に天降りし 皇祖の 神の御代より…
第20巻4466番歌磯城島の大和の国に明らけき名に負ふ伴の男心つとめよ
第20巻4467番歌剣太刀いよよ磨ぐべし古ゆさやけく負ひて来にしその名ぞ
第20巻4468番歌うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道を尋ねな
第20巻4469番歌渡る日の影に競ひて尋ねてな清きその道またもあはむため
第20巻4470番歌水泡なす仮れる身ぞとは知れれどもなほし願ひつ千年の命を
第20巻4471番歌消残りの雪にあへ照るあしひきの山橘をつとに摘み来な
第20巻4474番歌群鳥の朝立ち去にし君が上はさやかに聞きつ思ひしごとく [一云 思ひしものを]
第20巻4481番歌あしひきの八つ峰の椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君
第20巻4483番歌移り行く時見るごとに心痛く昔の人し思ほゆるかも
第20巻4484番歌咲く花は移ろふ時ありあしひきの山菅の根し長くはありけり
第20巻4485番歌時の花いやめづらしもかくしこそ見し明らめめ秋立つごとに
第20巻4490番歌あらたまの年行き返り春立たばまづ我が宿に鴬は鳴け
第20巻4492番歌月数めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか
第20巻4493番歌初春の初子の今日の玉箒手に取るからに揺らく玉の緒
第20巻4494番歌水鳥の鴨の羽の色の青馬を今日見る人は限りなしといふ
第20巻4495番歌うち靡く春ともしるく鴬は植木の木間を鳴き渡らなむ
第20巻4498番歌はしきよし今日の主人は礒松の常にいまさね今も見るごと
第20巻4501番歌八千種の花は移ろふ常盤なる松のさ枝を我れは結ばな
第20巻4503番歌君が家の池の白波礒に寄せしばしば見とも飽かむ君かも
第20巻4506番歌高圓の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代遠そけば
第20巻4509番歌延ふ葛の絶えず偲はむ大君の見しし野辺には標結ふべしも
第20巻4512番歌池水に影さへ見えて咲きにほふ馬酔木の花を袖に扱入れな
第20巻4514番歌青海原風波靡き行くさ来さつつむことなく船は速けむ
第20巻4515番歌秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相か別れむ
第20巻4516番歌新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
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大伴家持とは?

大伴家持(読み:おおとものやかもち)
718-785 奈良時代の公卿・歌人。万葉集の最終編纂者と言われている。(万葉集は何度も色んな人の手で編纂されてきて、最終的に家持によってまとめられたとされている。そのため、「万葉集の作者」とも言われている。)
残した歌は473首となり、万葉集のほぼ一割ほどが家持の歌になる。なぜそれほどの歌が万葉集に掲載されているのかも、家持の生い立ちにある。

幼い頃に母親を亡くし、坂上郎女に育てられ、父は大伴旅人で、子供のころから和歌の影響を強く受けて育ってきたと思われる。また万葉集の歌人として有名な山上憶良とも親交があったため、万葉集をまとめるなら家持しかいないのでは?というのも頷ける。

家持は天平宝字3年(759)に20巻4516番歌の歌を残し、その後は何も残していないとされている。

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